「マズローの五段階欲求」とは?
「マズローの五段階欲求」とは?
マズローの五段階欲求とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズロー氏が「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定し、人間の欲求を五段階に理論化したものである。人間には五段階の欲求があり、一つの欲求が満たされると次のステップの欲求を満たそうとする、基本的な心理行動を表しているものである。マズローは、1908年にアメリカのニューヨークで生まれたユダヤ系移民の心理学者であり、人間心理学の生みの親と言われている人物である。マズローは人間の欲求は下から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「尊厳欲求」「自己実現欲求」の五つの階層に分かれているとした。そしてこれらの階層はピラミッド状になっており、人間は低い階層の欲求が満たされると次の段階・一つ上の階層の欲求を求めるようになるという理論である。
「マズローの五段階欲求」
第一段階 「生理的欲求」
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第二段階 「安全欲求」
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第三段階 「社会的欲求」
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第四段階 「尊厳欲求」
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第五段階 「自己実現欲求」
第一段階 「生理的欲求」
「生理的欲求」とは、マズローの五段階欲求説の中でピラミッドの最下層の第一段階の欲求である。これは生きて行く為に最低限必要な、基本的・本能的な欲求である。食欲・排泄欲・睡眠欲等の基本的な欲求で、これらが満たされないと生命の維持が困難であるというレベルである。ただ単純に今日という一日を生き抜きたい、生命を維持したいという欲求でもある。マズローは、人間がより高いレベルの内的満足を追求する為には、先ずは生理的欲求を満たさなければならないとしている。
動物の場合は、生命の維持に必要なこの基本的な欲求が満たされると満足する種類がほとんどである。しかし人間の場合は、生命の維持に必要なこの階層に欲求が留まる事は一般的ではない。従ってこの生理的欲求が安定的に満たされる環境が得られた人間には、一つ上の階層の安全欲求が心に芽生えるようになる。
第二段階 「安全欲求」
「安全欲求」とは安心・安全な暮らしへの欲求である。生命の維持に関するものを安定的に維持したい、身の危険を感じるような状況から脱したいという欲求である。暴力や飢えなどの不安にさらされない、心身ともに健康で経済的にも安定した環境で、安心して暮らしたいという感情だ。
成長発達の過程にある乳幼児の場合、この安全欲求が顕著にみられる。「保護者と離れると不安になる」「暗闇を怖がる」という感情が強く、「保護者がそばにいる明るい場所を好む」といった行動が良く見られる。しかし成長するにつれ、次の欲求段階へと自然に進むのである。
しかし、後進国の国々では乳幼児に限らず成人であっても、まだまだこの安全欲求が満たされていない環境での生活を強いられている人間も多くいる。従って一般的にこのような国では国民全体の民度が低い傾向が見受けられる。
第三段階 「社会的欲求」
「社会的欲求」とは友人・家庭・会社・つまり社会に受け入れられたいとか、認められたいという欲求である。集団への帰属や愛情を求める欲求であり、「愛情と所属の欲求」あるいは「帰属の欲求」とも表現される。マズローによると、人間は社会的集団の中で所属感や受容感を求める欲求を持っており、規模の大きさを問わず集団の一員であると感じられる事が大切であるとしている。
人間は組織に適応し、同僚から受け入れられ、自身の貢献が評価されたと感じると、組織への帰属意識が高まるものである。逆にこの欲求が満たされない状態が続くと孤独感や社会的不安を感じやすくなる事がある。現代社会を生きる人間にとっては、所属できる集団が必要不可欠であるといえるだろう。
第四段階 「尊厳欲求」
「尊厳欲求」とは他者から尊敬されたい・認められたい、自尊心を満たしたいと願う欲求である。名声や地位を求める「出世欲」もこの欲求の一つに当てはまる。外的な部分を満たしたい第三段階までの欲求とは異なり、内的な心の欲求を満たしたい感情へと変わる。また尊厳欲求は、第三段階の社会的欲求が前提となっており、社会的な欲求が満たされると、次に他者からの称賛を求める欲求が自然と湧き出てくるという事である。尊厳欲求を満たす事は、行動のモチベーションにつながる。自分のポテンシャル・可能性に気付いて自分自身を成長させる原動力にもなるのである。
マズローは、全ての人間は自尊心を持つ事が非常に重要である事を強調した。人は皆、家族・恋人・友人・会社の同僚や上司などから自分の行動を評価される事を必要としているのである。なお、尊厳欲求には他者からの尊厳・名声・注目などを得る事によって満たされるものと、自己尊重の意識付け・技術や能力の取得・自立性などを得る事で満たされるもの等がある。この第四段階の尊厳欲求が満たされないと、劣等感や無力感などの感情が生じる事がある。
第五段階 「自己実現欲求」
「自己実現欲求」とは、自分が満足する自分になりたいという欲求の事で、第一段階から第四段階までのピラミッドの階層の欲求を全て満たしたうえでないと実現できないものである。つまり、ここまでの第一段階から第四段階までの全ての欲求が満たされた場合に心に芽生えてくるのが、この自己実現欲求である。「スポーツ・芸能・音楽の世界で成功したい、出世して社長になりたい、理想の家庭を築きたい等、人によって方向性や目指す目標の大小は異なるが、自分の能力を活かしてさらに成長をしたいと願う欲求の事である。
自分の世界観・人生観に基づいて「理想とする自分象」になりたいと願う欲求である。潜在的な自分の可能性の探求、自己啓発行動、創造性の発揮等を含み、自己実現に突き動かされている状態である。これまでの欲求とは異なり、「自分の生き方と向き合わなければ満たせない」という特徴がある。
「衣食足りて礼節を知る」
ここで重要なのは、ピラミッドの下の階層の欲求が満たされない限り、次の段階の欲求すら芽生えてこないという事である。つまり、違う階層の欲求段階にいる人間は人間性や民度が全く異なると言う事である。上の階層の欲求段階にいる人間は、既に達成された下の階層の欲求段階にいる人間の心理や思想を理解できるが、下の階層の欲求段階にいる人間は上の階層の人間の心理や思想を理解できないのである。
例えば第一段階の「生理的欲求」が満たされていない人間は地面に落ちた泥まみれの団子であっても喜んで口にする。汚れた手を洗ったり、着ている衣服を綺麗に洗濯する事もない。何故なら彼らにとってはそれらは意味のない行動であるし、その必要性が理解できないからである。
しかし、既に第一段階の「生理的欲求」が満たされて、第二段階の「安全欲求」が芽生えている人間は、地面に落ちて汚れた団子を口にしなくても、安全で清潔な食料を手にできるので、後者の方を選んで口にするのである。汚れた食料を食べないと餓死してしまうという状況から抜け出せているからこのような行動がとれるのである。そうすると綺麗な手で食事を楽しんだり、清潔な状態の衣服を着ていたいという欲求も自然に芽生えてくるのである。
これは春秋時代に生まれた思想「人間は、衣服や食料が満ち足りて、生きる為に必要なものが十分に手に入り、生活に余裕が出来て初めて、礼儀や節度をわきまえる事が出来るようになり、名誉と恥辱の違いを心得るようになって、社会の秩序を保つ為の作法や行動を期待する事が出来るようになる」という意味である「衣食足りて礼節を知る」と似たような考えでもある。
国際協力「ODA」の思想の本質
先程述べた、
「人間にはピラミッドの下の階層の欲求が満たされない限り、次の段階の欲求すら芽生えてこないのである。つまり、違う階層の欲求段階にいる人間は、人間性や民度が全く異なると言う事である。上の階層の欲求段階にいる人間は、既に達成された下の階層の欲求段階にいる人間の心理や思想を理解できるが、下の階層の欲求段階にいる人間は、上の階層の人間の心理や思想を理解できないのである。」
この理論を理解する事は非常に重要である。世界の国々を先進国・発展途上国・後進国等に分類する事があるが、これはまさにマズローの欲求段階のピラミッドの階層に当てはまる。肉体的・精神的・経済的に満たされているものが少ない後進国の人間は、先進国の人間の考えや思想など理解できないのである。己の欲の為だけに他者を犠牲にするような争いを平気でしたり、非常に短期的な視点で物事を見て行動したりするのは、自らが今日という一日を生き抜く事に必死である為、まだまだ心や視野が狭いからである。また自らの寿命も短い為、長期的な視点で物事を考えると言う事は非常に困難であるし、むしろ非常識ですらある場合もあるのである。従って、既にこれらの欲求を満たし、上の階層にいる先進国の人間は、下の階層にいる人間を見下したりけなしたりするのではなく、寛大な心を持って接していくべきなのである。
そして、自分たちの思想や考えを理解してもらいたいと思うのであれば、下の階層の人間の欲求を満たしてあげる事により、彼らの人間性を向上させ、自分たちと同じ階層に引き上げなくてはならない。世界中の人間が同じ思想や考えをお互いに理解し尊重しあえるようになるには、全ての人間が同じ階層の欲求段階に居なくてはならない。もしくは最低限、第三段階欲求の社会的欲求のレベルに達していなくてはならないのである。これこそが国際協力「ODA」の本質であり、先進国が積極的に行っている理由である。
第六段階 「自己超越欲求」
ちなみに晩年、マズローは五段階欲求の更に上に、自己超越の段階があると発表した。「自己超越」とは目的の遂行・達成のみをピュアに求めるという領域を指し、見返りを求めずに自我を忘れてただひたすら目的の遂行に没頭する状態を指している。これは自分のエゴを超えたレベルでの理念の実現を目指すものである。自己超越の欲求は、例えば「世界の貧困をなくす」等の自分の外側にあるものに対する貢献を指す。慈善活動や寄付などの行動は、自己超越の欲求であると言えるであろう。
ビジネスの観点からみると、自己超越の欲求は、個人が自分自身の役職を超えて、他の社員や組織、更には社会全体の利益を追求する欲求を指している。
マズローいわく、「自己超越」の領域に達する事が出来るのは全人類の僅か2%程度であり、普通の人間が第六段階の自己超越欲求の実現を目指すのは、非常にまれなケースであるとしている。
マズローの五段階欲求に関する記事では、ダントツで分かりやすかったです。ポイントを押さえてシンプルかつ理論的な説明なので、理想的な内容ですネ。
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