駐在員にかかるコストを本人に認識させる事の重要性
駐在員にかかるコストを本人に認識させる事の重要性
駐在員に関する人事や経済面での苦悩は、海外進出をされている企業の多くが直面する問題であろう。具体的で実戦的な対処方法を指摘する為にも、今回は私がアジアでは最も多くの時間を費やしたシンガポールでの例を示していきたい。
シンガポールに赴任してくる駐在員は若手も多い。治安が安定しており英語も通じる為、経験が浅く人間的にまだ若くても何とか業務は出来る為、最初の海外経験を積ませるには適しているからであろう。しかしシンガポールは物価が高く、家賃を含めた駐在員に対する会社のコストが重くなる為、通常は費用対効果の高い社員を送り込む事が多い。つまり若手であっても将来を期待された人材か、既に様々な国で経験を積んでおり、業務に精通していて、世界の本社機能が集約しているシンガポールに送り込まれた、日本では幹部クラスの人材が多いのである。
若手の社員は、本人も会社側も経験を積ませる為に派遣されているとの共通の認識がある為、それぞれの目的を果たして2ー3年で無事に帰国していく。問題は、日本では既に幹部クラスの社員が駐在員として送り込まれた場合である。
幹部クラスの社員は、会社から結果を出す事を期待されている。既存の事業を更に発展させていく事や、新規のクライアントを開発して契約を勝ち取る事等、実際に利益を生み出すような成果を期待されているのである。当たり前の事であるが、駐在員のコストが他の海外の国よりも割高になるシンガポールでは、その期待値はより高くなるのである。物価の高いシンガポールでは、以下のようなコストが他の海外の国よりも割高になる事が多い。
1. 安全面に考慮した住居(中堅のコンドミニアムの家賃の相場は安くても25万ー35万円)
2. 車両費(法の整備されているシンガポールでは発展途上国や後進国で心配されるようなトラブルもない為ドライバーはつかない)
3. 海外手当(これは企業によって異なるが、私の経験上では中堅の企業であれば20万ー30万円の支給であった。)
4. 海外出張費(シンガポールはアジアの本社機能的な立場である事が多く、周辺のアジア各国や中東などへの出張が非常に多い。月の半分以上は海外出張である事は決して珍しくない。製造業で言えば、シンガポール国内に工場はほとんどないが、アジア各国へのアクセスが便利で、税制面からシンガポールに本社機能を設置している取引先企業や金融関係企業が多いので、自社もシンガポールに駐在員を置いているという会社は多い。またシンガポールは、様々な国際会議の開催で世界トップクラスの数を誇る為、新規のクライアントを獲得したり、新たな人脈を築くには非常に有利で効果的であると判断する企業も多い。)
このような様々なコストが、シンガポールの駐在員に対する期待値を高めている要素である。会社側からしてみれば費用対効果を求めるのは当然であるが、駐在員本人はこれを理解していない事が少なくないのに驚かされる。
どういうことか?
これまでに食生活や精神面での苦労が多いタフな環境での駐在経験が長かった人間にとっては、アジアでは珍しい英語圏で食事や衛生面等も恵まれているシンガポールの赴任は、まさに天国と感じるものである。個人のキャリア履歴にも、「シンガポール駐在」というのは他の赴任地と比べたら伯が付くというか、誇らしく感じるのである。多くの業界の本社機能が集まる赴任地である為、周囲からも優秀な人材だと映る可能性も高まる。従って、
「自分は出世したんだ」
「今まで頑張ってきたから、少し羽を伸ばそう」
「これまで会社に貢献してきたご褒美だ」
等と、息抜き的な赴任地と勘違いをしてしまう駐在員が多いのである。
私も海外進出している身として、ハッとさせられました。確かにご指摘の通りですね。仕事うんぬんよりも、人間性が大切だということは、頭で理解していても、実際に、現場レベルでその考えが共有されているかどうかは………難しいですね。
ReplyDeleteTotally agreed. The Japanese professional hospitality mindsets are created this way.
ReplyDeleteとても参考になります。素晴らしい内容の執筆活動、ありがとうございました
ReplyDeleteAlways think of long term management. Result does not come out in a day. Patience is the key to success.
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